ふるさとを懐かしみ手に入れた土地でベトナムライム「チャイン」栽培/ベトナムライム ロンアン貿易・投資株式会社/社長グエン・ヴァン・ヒエン

 ベトナムには徳島のスダチやライムに似た「チャイン」という柑橘類がある。徳島県人は半分に切ったスダチを食卓に常備し、揚げ物のみならず、味噌汁、そうめん、白いご飯にまでスダチをかけて食べるそうだ。ベトナム人も徳島県人に負けてはいない。チャインのしぼり汁をベトナム米うどんのフォーや小麦麺のミーといった麺類に入れる、鶏肉を食べる時にはチャインを絞った汁に塩、胡椒、唐辛子を入れて漬け汁にして食べる。ベトナムの食卓にはチャインは欠かせない。

 今回ご紹介する企業はこのチャインを農場で育て、加工の上で市場に提供している企業、ロンアン省にあるチャインベト社だ。同社社長のグエン・ヴァン・ヒエン氏にお話を伺った。コロナ禍にあり、取材もZOOMによって行ったことをお断りしておく。

 ホーチミン市から車で1時間30分ほどでチャインベト社のロンアン省のチャイン農場はある。面積150ヘクタール、50人から100名の従業員を雇用して柑橘類「チャイン」を栽培している。

スダチやライムに似た柑橘類「チャイン」

 チャインはヘクタールあたり年産10〜15トンも収穫できる。青果では販売せず、主にはチャインの加工品を国内販売と輸出を行っている。パウダー状の製品や瓶入りジュースのもの、インスタント茶・ジュースに混ぜたもの、調味料として加工したもの、エッセンシャルオイルやハチミツ漬けのチャインもある。主な顧客は国内のホテル、レストラン、即席ヌードルメーカーである。米国ユニリーバのベトナム現地法人も得意先の一つだ。輸出先としては日本、韓国、カンボジア、中国などである。

 ヒエンは1979年、中部のクアンナム省の出身、貧しい農家の生まれだ。ヒエン自身が虫垂炎にかかり緊急手術をしなければならなくなったが、家にお金がなく、両親は病院の周りで物乞いをして治療を受けなければならないほどだった。

 ヒエンの父母は多くのことを学び、成績もよくなって都会に出て事業を起こせるほどになるようにと望み、勉強好きなヒエンもそれに応えた。ヒエンはホーチミン市の大学に進学、工科大学の電気科にも学んだ。ホーチミン市に出てきた時には手元に50万ドンしかなかった。

 ヒエンの兄弟は4人全員ホーチミン市で勉強をしていた。父親の訃報を受けて慌てて故郷に帰る時でも車を借りたもののお金が足りず、実家からあと30kmのところで車を降り、そこから徒歩で家に帰ると父親の葬式の真っ最中だった。

 勉強することが好きだったヒエンは貧乏にもめげず、大学で学び、卒業後は建築関係の国営企業に勤めた。ただ、その企業では事業の発展が望めないとみきわめて、会社を辞めた。ヒエンは友人とともにホーチミン市に建設関連企業を立ち上げた。ホーチミン市に次々と高層ビルが立ち並び始めた頃だった。事業は成功した。

チャインのイメージフォト

 都会にでて大学で学び、そのまま就職し、事業を立ち上げ、生活に余裕がでてくると、思い出されるのは「ふるさと」だった。ヒエンはホーチミン市からほど近いロンアン省の国道沿いに20haばかりの土地を友人とともに買い求め、週末に友だちと集う場所を設けた。最初は遠いふるさとを思い出すつもりで買い求めた土地だった。

 土地をそのままにしておくのはもったいないとヒエンらは当初、当時栽培が盛んだったドラゴンフルーツを植えようかと考えた。しかし投資にお金がかかりすぎるとあきらめた。周辺の農民たちも色々な作物の栽培を試みたが、失敗していた。自分たち農業の素人が同じようにやっても結局失敗するのは目に見えていた。

 ヒエンはヴォー・トン・スアン教授をはじめ一流の農業専門家たちに意見を求めた。彼らがいうには「有機農法によってチャインを生産し、付加価値を高めて海外へ輸出してはどうか」という提案だった。欧州式の栽培方法を学び、国内の農民たちと競争するのでなく、海外の有力ブランド企業と競争するのだ。

 チャインは柑橘類で虫害にも強い。虫害に強いということは植物防除剤、いわゆる防虫剤などを撒く必要もない。有機農法に適した作物であるといってもよい。ロンアン省に買い求めた土地はメコンデルタ特有の酸性硫酸塩土壌といわれる土壌で柑橘類の育成には向いていたのだ。

 ふるさとを懐かしむ目的で購入した土地を買い求めてから4年が経っていた。ヒエンは最終的に150haの土地を購入し、チャインベト商事・投資株式会社を設立し、事業としてチャイン生産・加工品の販売へと踏み出した。2014年のことだ。

 当時、農場として手に入れた土地はただの野原で、電気も水道も道路すらない場所だった。ヒエンは自ら資金を費やして三相電気をひき、2kmにおよぶコンクリートの道も敷設した。ヒエンが電気をひいたことで近くの住民たちはよろこんだ。これで電気時計を設置し、ポンプを使って地下水を組み上げることもできると。

 土地を改良をほどこし、電気、水道、冷蔵庫、加工工場を設置するなど、総投資金額は700万米ドルに及んでいる。

 同社の特徴は専門家評議会を組織していることにある。この専門家評議会は技術者グループに対して助言と支援を行い、その研究活動、栽培、製品加工を確かなものにする役割をはたしている。そのことによるチャインおよび農産物を規定通り正しく栽培し、品質の商品づくりと消費者の健康によいものを届けようとの思いからだ。専門家評議会の責任者はホーチミン市農林大学の食品化学技術科の准教授が務めている。

 ヒエンはまた若手の育成や国内外の研究者との協力関係も築いている。

チャインベト商事投資会社スタッフ

 ホーチミン市農林大学の学生の研究、栽培、加工、経営マーケティングの実習訓練も引き受けているほか、米国、マレーシア、台湾からも学生を受け入れている。研究分野では米国をはじめ、日本の佐賀大学の辻一成農業経済学教授に協力を得て同社の製品の日本への紹介も継続的に行っているとのことだ。

 日本の企業との取引も長く、ヒエンによれば日本の企業は誠実であり、信用のおける企業だとの印象をもっている。今後、日本企業には濃縮ジュースやハチミツ入り製品、エッセンシャルオイルなどを購入してもらいたいと考えているという。

 チャインはビタミンC、Bやカリウム、リンその他の元素が豊富で人間の健康にとってもよい。心臓病を防ぎ、高血圧症の治療やガン、炎症、抗ウイルス・抗菌作用もあるとされる。またチャインの絞り汁には多くの酵素が含まれており、肥満の解消や人間の脂肪を燃焼させるプロテイン各種が含まれているなど、いいことづくめだ。

 ベトナムライム ロンアン貿易・投資株式会社のチャイン製品の日本への輸入に多くの企業が手をあげてくれることを祈りたい。

文=新妻東一

ベトナム・ロンアン省のチャイン農園

ベトナムライム ロンアン貿易・投資株式会社

Chanh Viet Long An Trading and Investment Joint Stock Company

2014年創業。ベトナムライム「チャイン」栽培、加工、国内外に販売・輸出。主な製品:ライムパウダー、ライムジュース、ライム&チリソース、エッセンシャルオイル、ハチミツ&ライム製品など。主な輸出先国:日本、韓国、中国、カンボジアなど。


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