龍の吐き出した珠玉が数千という島々になった!母と子の龍伝説、ハロン湾
- 2022/01/31
- ベトナム観光旅行記
北部ベトナム観光の目玉はなんと言ってもハロン湾!さまざまな形状をした数千の島からなる多島海が織りなす奇景は訪れる人の目を楽しませてくれます。この景観は中国南部カルストと同様、石灰岩からなる大地が亜熱帯の大量の降雨と気温の高低差によって侵食され、形成された自然の彫刻です。カルスト地形の特徴として島の内部には鍾乳洞が多数見られます。何十万、何百万年という長い年月によって形作られた鍾乳石の形状の多様さにも驚かされます。カルストの景観と共に鍾乳洞巡りはハロン湾観光のハイライトの一つです。
私は旅行業者として、あるいはプライベートでハロン湾を何度も訪れています。それでもハロン湾はいつも違った顔を見せてくれます。飽きることのない魅力に溢れているハロン湾をご紹介いたします。
2018年、ハノイからハロン湾への高速道路が開通したおかげで、それまで車で片道4時間かかっていた道のりは2時間から2時間30分となりました。日帰り観光も全くストレスのないものになりました。
ハロン湾は1994年、世界自然遺産に登録されました。石灰岩のカルスト地形とその地形がもたらす生物多様性が世界自然遺産登録の重要なポイントとなりました。
ハロン湾のハロンとは漢字で書くと下龍、つまり龍のくだる場所という意味です。ハノイの古い呼称はタンロン、漢字で書くと昇龍、つまり龍がのぼる場所ですが、あたかもそれと対になっているかのようです。
古い文献にはハロンという地名はなく、19世紀になって初めてフランスの航海図や新聞記事にあらわれる名称であると、ベトナム・ハロン湾管理委員会のウェブサイトにあります。
1898年、フランス人水夫の乗船した船がハロン湾で巨大なウミヘビのつがいと遭遇したとフランス語の新聞「ハイフォンニュース」が伝えています。この目撃証言はその後も続き、ハロン湾にはフランス人がいう巨大なウミヘビ、すなわちベトナム人にすれば「龍」が棲む場所として思い起こされたのでしょう。
ベトナムの建国神話では、ベトナム民族は龍と仙女の子孫であると伝えられています。龍はすなわちベトナム人にとっては自らの祖先なのです。
ハロン湾にまつわる「伝説」として次のような話があります。
「そのむかし、ベトナム人が建国したばかりの頃、ベトナムは敵の侵略を受けました。敵を討つベトナム人を助けるべく、龍の母は子どもを伴って下界に降りてきました。敵の船が海から岸辺に一斉に攻め込んできたとき、龍の群れは無数の珠玉を噴き出し、その珠玉は幾万もの高い岩の島と化し、堅固な壁となって敵の軍隊の前進をとどめました。敵の船は突然現れた岩の島に激突し、互いに衝突しあって木っ端微塵となりました。敵が退散すると、母と子の龍は天に戻らず、下界の戦場となった場所に残りました。龍の母がおりた場所はハロン湾となり、子どもの龍がおりた場所はバイトゥロン(ハロン湾に近接するもう一つの湾)となりました」
龍が吐き出したあまたの珠玉がハロン湾に浮かぶ岩の島々となり、ベトナムを敵の手から守ったという話は中国から何度も侵略を受けても国を守ったベトナムらしい伝説といえるでしょう。
ハロン湾を観光する際に最も手頃なのは日帰りツアーに参加することです。ハノイを朝に出発し、昼前にはハロン湾に到着します。ジャンク船をかたどった観光船に乗り込み、約4時間の船上観光を楽しみます。
船に乗船するとすぐに海鮮料理の昼食を楽しみます。新鮮なエビやイカの料理をお楽しみください。途中いけすに立ち寄ることができれば、そこでクエやカブトガニ、貝などの珍しい鮮魚を手に入れて、船上で調理をしてもらい、楽しむこともできます。
石灰岩の岩や島々の間を縫うようにして船は進みます。犬岩、親指岩、雄鶏・雌鳥岩、香炉岩など、形に応じた名前のついた岩島を巡ります。香炉岩は20万ベトナムドン札のデザインにもなっています。
お腹がいっぱいになったところで、船を降りて島の鍾乳洞を探索します。ハロン湾にはいくつかの鍾乳洞があり、日帰りツアーの場合はその鍾乳洞の一つをご案内いたします。天宮(ティエンクン)洞、びっくり(スンソット)洞などといった名称が付けられています。船着場から鍾乳洞の入口までは山道の階段を少し登らなければなりません。歩きやすい靴で観光されることをお勧めいたします。
鍾乳洞の中は夏は涼しく、冬場は暖かに感じることでしょう。観光客が歩く場所はコンクリートの歩道があり、歩きやすくなっていますが、ところどころ水に濡れているところもあり、足元には注意が必要です。
何万年、何十万年の間に形作られた鍾乳石や石筍がまるで人為による彫刻のように見えます。その造形から何かの形を想像してみてください。ライトアップされた鍾乳洞の内部は神秘的ですらあります。天宮堂の巨大な空洞はまるで宇宙の真っ只中にいるかのようです。
もし時間に余裕があるのであれば、船上泊ができる船に乗船することをお勧めいたします。乗船する船によって異なりますが、船上で昼食、夕食、朝食の三食が楽しめるフルボードでのサービスが提供され、海鮮料理料理もベトナム料理のみならず洋食のビュッフェなどが用意されており、各社競うようにおいしい料理を提供しています。
1泊2日の船上泊できる船の場合、観光の後に夏ならば海水浴ができたり、カヤックという小さな手漕ぎのボートで島々をめぐることのできるサービスがオプションで選択できるものもあります。
他に料理教室で生春巻きを習ったり、タイチーという太極拳に似た体操ができるコースもありますので、船上泊のできるクルーズ会社とよくご相談ください。
風光明媚な観光地ハロン湾ですが、大人であればハロン湾の自然の景観だけでも十分楽しめますが、子どもたちにはちょっと退屈かもしれません。お子様のいらっしゃる方にはハロン市内のバイチャイにある「サンワールド・ハロン・コンプレックス」という遊園地に立ち寄るのはいかがでしょう。
サンワールドはベトナム資本のアミューズメントパーク運営会社で、ハロン湾のほか、ダナンやフーコック、ラオカイ省、タイニン省などに遊園地を開設、運営しています。
ハロンの遊園地は総面積214ヘクタール、二つのエリアに分かれています。一つは海岸沿いのアミューズメントパーク、もう一つはバーデオ山頂のアミューズメントパークです。二つの遊園地はロープウェイで結ばれています。
海岸沿いのパークにはベトナムで最高速度のジェットコースターやプール遊びができるウォーターパークがあります。
ロープウェイは全長2km、ロープウェイからのハロン湾の眺めも最高です。低いところから眺めるのと異なり、湾内に大小の島々の連なりを見ることができます。天候が多少悪くても、遠くに霞む石灰岩の島々は幻想的ですらあります。このロープウェイに乗車するだけでも、このパークに入場する価値があります。
バーデオ山頂のパークには観覧車や「日本庭園」があります。ただ日本庭園はあくまでもベトナム人から見た「日本」ですので、その点は割り引いて楽しんでください。
さらにお金と時間に余裕のある方は水上飛行機による遊覧飛行のサービスもハイアウ航空という航空会社が提供しています。空からのハロン湾観光を25分間のお楽しみいただけます。水上飛行機に乗ってハロン湾上空を遊覧飛行するという他では得難い経験をすることができます。
ハロン湾の近くには有名なホンゲイ炭鉱があり、その採掘に発生する汚泥や、ハロン市などの周辺の都市の開発が進むにつれて、下水の処理が追いつかず海水に流れ込んでいることから、湾内の海洋汚染が年々ひどくなっています。ベトナム政府は諸外国からの援助を受けて下水処理場の新設や、観光船の汚水処理などにも力を入れています。この支援の中には日本のJICAの支援があることも付け加えておきましょう。
コロナが早めに収束し、再びハロン湾を多くの観光客が訪れる日を待ち望んでいます。
文=新妻東一