絶叫マシンをはじめ、アミューズメント機械設備を設計製造するASEAN諸国唯一のメーカー/サウコン有限会社

 東京ディズニーランド開園は1983年。開園直後、物珍しさも手伝って、私もディズニーランドを訪れた。私は当時まだ大学生。ジェットコースターにもまともに乗った経験もないのに、当時一番人気だったライド、スペースマウンテンに挑戦した。暗闇の中、わずかな光の間を疾駆するコースター。右か左か、上へ行くのか、下へ行くのか予想もつかず、乗車している時間が長く長く感じられた。下車した時にはもう次のライドに乗る気力も失せるほどの衝撃と恐怖を味わった。その時の経験がトラウマとなり、以来絶叫マシンの類いに乗ることを身体全体が拒否するようになってしまった。
 私がベトナムに暮らすようになった20年ほど前にはいわゆる絶叫マシーンの存在する遊園地はなかったように記憶する。しかし、ベトナムが豊かになるにつれ、いわゆるモノ消費からコト消費へと推移し、この20年の間にいわゆる遊園地、アミューズメントパークが増加し、Tripadvisorで検索してもその数は30カ所を超えている。
 今回ご紹介する企業は遊園地向けの絶叫マシン、ライドを開発・設計、製造、輸出まで手がけるユニークなメーカー、サウコン社だ。本社を構えるのは、メコンデルタ最大の都市、カントー。ホーチミン市から南西に車で3時間30分ほど走らせたところにある、人口120万人を超える大都市だ。
 遊園地向けの32m計の観覧車、最大39mのフリーフォール、3回転ローラーコースターなどの大型の絶叫マシン、ライド設計・製造というニッチでユニークな企業がベトナムの、それもカントー市になぜ産まれたのか、社長のチャン・ゴック・フンに伺った。なお、この取材はZOOMを使ったリモートでの取材である。

 同社の歴史は1999年にさかのぼる。カントー市の中心街であるニンキュー区に「サウコン遊技場クラブ」がオープンした。今もゲームセンターやファミリー向けの遊園地にあるような幼児向けのコインを入れると動き出す電動式の乗り物を並べたようなものだったが、売上も利益も常に前年を上回るほど、右肩上がりに急成長した。思えばホーチミン市でも当時街のあちこちに子供用の電動乗り物を並べて商売していた。子どもたちの遊び場の少なかった当時、もの珍しさも手伝ってか、どこの遊技場も行列ができるほどだった。
 サウコン、という社名、ベトナム語を日本語に直訳すると「子どものワニ」という意味なのだが、社名の由来をフンにたずねた。
 「ワニの子、そう、クロコダイルの子どもという意味そのものなんだ。ワニは強い動物のイメージ、だがその子どもはかわいいだろう。将来強い動物に育つが、今はかわいい子どもだ、っていうことからつけたんだ」と答えるフン。
 フンはその遊技場クラブに2003年に加わった。カントー大学で機械工学を学んだフンは小型の電動カートや電動乗り物の設計、製造に関わった。外部から機械を購入するのではなく、自分たちで乗り物を製造し、自社で使用するだけでなく、メコンデルタ各省の顧客に遊技機械の製造販売を開始したのだ。
 「当時、出資者は4名、でも出資者といってもクーラーのある部屋でふんぞりかえっているのではなく、自分たちも一緒に働いたね。工場も4、5名しかいない小さな工場(こうば)だった」まさに今でいうベンチャー企業だ。2007年にはサウコン有限会社となった。
 サウコン社は遊技場クラブ経営から遊技機械の製造販売を開始してから20年近くを経て、従業員100名、2019年の売上は510億ベトナムドン(約3億円)の企業に発展した。


 サウコン社はアミューズメント設備を扱うだけあって、各種ライド設備の安全は常に第一に考えているフンはいう。
 一つは国際的にも認められる品質基準や生産工程での標準化、品質管理手法を取り入れている。アメリカ材料試験協会(ASTM)のF24規格、アミューズメント・ライド&デバイス向けの品質基準を取得、品質管理においてISO9000:2015にも合格できたことを誇っている。
 もう一つはモーター、ベアリングや各種電子装置は信頼のおける「日本製」を使用し、他の第三国からの部品を使用しないことを顧客向けにも確約していることをフンは強調した。彼はモーターなら三菱、電子部品ならパナソニック、トーヨー、オムロンなどの社名を挙げた。
 「もちろん構造体となる鉄骨などはベトナム製です。顧客からも日本製以外の部品を使用しないと確約が求められるんです」
 日本の生産工場の取り組みである、5S、せいり、せいとん、せいそう、せいけつ、しつけも自社の工場生産に取り入れているそうだ。

 同社は14名の技術者を抱えており、そのうち8名はアミューズメント・ライド機械の開発・設計を行うことのできる技術者だという。新しいアミューズメント設備を開発するにあたって、海外のメーカーの製品を参考とするために海外の遊園地やテーマパークを訪問したりするのか?とたずねるとフンは「いや、主にYouTubeなどの動画を参考にはしているが、海外にわざわざ出かけることはない」と言い切った。自社の独自開発力にも自信を見せるフン社長。
 国内外の他社との競合はあるのか?と尋ねた。フンは次のように答えた。
 「ホーチミン市内で、当社の製品のコピーを見つけたよ。でも恐れることはない。真似をされたらまた新しい製品を市場に送り出せばいい。コピー製品は部品に安物を使っているので、耐用年数も短いから、みなこりて、必ずサウコン社に戻ってくる」と自信も見せる。
 アミューズメント・ライド機械の製造メーカーは世界的にみてもニッチな世界であり、欧州や米国の中小メーカーがしのぎを削っている。彼らも今後伸びるであろう市場、特に中国や東南アジア市場向けにも力を入れている。日本のアミューズメント機械設備の製造メーカーも欧州や米国のメーカーを買収し、アジア各国への進出の足がかりを求めている。
 同社はベトナム国内すでに36の省・都市にある遊園地に機械設備を納品している。機械設備の保証期間は12ヶ月だが、その後も一年間に一度複数のチームを編成して、機械設備の保守点検も行なっている。
 「実はASEAN諸国内でアミューズメント機械設備の開発・設計・製造できるメーカーはサウコン社、ただ一つなんですよ」とフンは胸を張る。
 お金を持っている遊園地の投資家たちは欧米の機械設備を買いたがる。しかし遊園地の投資家は大金持ちばかりではない。ファミリー向けの中小規模の遊園地の投資家は比較的安価だが、品質の良い製品を求めている。ベトナムのみならず東南アジアの遊園地はサウコン社の顧客になりうるとフンは目論んでいる。つい先日もタイの顧客に「アドベンチャー」「ミュージックエクスプレス」という二つの製品を納品したところだ。


 コロナ禍でアミューズメント機械設備の投資も差し控えられたが、同社は鉄骨構造を得意とするので、プレハブ鉄骨構造の倉庫や工場建屋の建築も請負っている。はじめたのは2年前だったが、順調に受注できていると語るフン。1万平米の大きな工場を建てたので、そこに十分な仕事を賄うためにはじめたプレハブ鉄骨上屋の建設だが、コロナ禍の逆風を耐えることができたのはこの新しい事業のおかげだろう。

 「ワニの子」サウコン社はフン社長のもとで、コロナの苦境を脱して、強くたくましいオオワニに育つことだろう。

文=新妻東一

社長 チャン・ゴック・フン

サウコン有限会社

1999年、同社の前身である「サウコン遊技場クラブ」創業。2003年に遊戯機械設備の製造を開始、メコンデルタ各省に販売。現在はベトナム全土36省・都市に遊戯機械設備を販売、タイなどにも製品を輸出する。遊園地の設計のコンサルティングも行う。2020年にはプレハブ鉄骨構造建物の製造施工も開始。

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